キキーッ ドンッ!
けたたましい音が響いて、弥音は驚いて棚にしまおうと抱えていた商品を床に取り落とした。
嫌な音だ。車が事故でも起こしたのだろうか?
否応なしに、昔のことが頭をよぎった。
秋の夜だ。
満月だった。あたりは月の光と街頭で明るかった。どうして避け切れなかったのか…。
心臓が早鐘を打つ。
ぎゅうっと苦しくなる。息が、出来ない。
よろめいて、棚に手をついた。整然と並べておいた商品が文句を言う。いくつかは足元に落ちた。
脳裏に、トラックのヘッドライトが迫る。
弥音はハンドルを切る。間に合わない!
助手席の少年が声を上げてこちらに手を伸ばす。
ぶつかる!!!
その瞬間、恐怖に引きつるトラックの運転手の顔が目に焼きついた。
衝撃を受けて、弥音は意識を手放したのだ。
弥音はとうとう立っていられずに膝をついた。床には商品がいくつも散らばっている。
どうにか呼吸を正そうと試みるがうまくいかない。
空気を、と思えば思うほどうまく息が出来ずに苦しくなってくる。
「弥音兄ちゃん!」
店の入り口から、准弥が入ってきた。
「兄ちゃん、どうしたの!?」
准弥は駆け寄って兄のそばにひざまづき、肩に手を置いた。その手のぬくもりに、弥音はようやく過去の幻影から抜け出し、ゆっくりと呼吸を取り戻す。
肩に置かれた弟の手に自らの手を重ねてすがるように弟を見上げた。
「……准…弥」
弱弱しく名前を呟くと、心配そうな弟の表情が少しほっとしたようになった。
もう、大丈夫。
十まで数えて、弥音は准弥の手を肩からはずし、立ち上がった。
「弥音兄ちゃん……」
立ち上がった兄を心配そうに見つめている弟に微笑みかけて、弥音は言った。
「すみません、ちょっと、眩暈がしただけです」
「………」
言い訳を疑わしそうに見上げる准弥に困ったような苦笑で返す。
「もう大丈夫ですから」
「……本当?」
「えぇ。この通り」
小首を傾げて返すと、しぶしぶと納得することにしたらしい弟は床に散らばった商品を抱えて立ち上がった。
「……気をつけてよね。医者の不養生なんてシャレ、楽しくないから」
「私は医者ではありませんよ」
「なんだっていいんだよっ」
兄の言葉が気に入らなかったらしい准弥が声を荒げるが、落ちている商品を棚に戻してくれているところを見るとまだ弥音を気遣っているらしい。
弥音は申し訳ないような、見られたくないところを見られてしまったバツの悪さを隠しつつも自分も床に落ちた商品を拾い上げた。
この苦悩から解き放たれるのはいつだろうか。
そんな日は来るのだろうか。
永遠に、そんな日は来てはいけない気がする。
あの日、自分の運転する車の助手席にいた頼人が、今はもうどこにもいないという事実が変わることはないのだから。
- 作品名
- ノイズ (弥音&准弥)
- 登録日時
- 2005/07/10(日) 23:16
- 分類
- EveryWhere::僕らのウィークデー