カランカランと、涼しい音色が響いて店の扉が開いた。
ダンボールの中から組み立てたばかりの真新しい商品棚に商品を並べていた店主は、少しばかり首をかしげて振り向いた。
まだあまり物のない店内に、一人の少女が入って来る。
日よけのためにブラインドを下ろして店内の証明をつけていたから、おそらく中の様子までは見えずに開店していると思って入ってきたらしいその少女は、店内の様子を見て慌てた様だった。
「あれっ、ごめんなさい、開店前でしたか?」
時刻は午後を回っている。まさか人気のあるお店が閉まっているとは思わなかったのだろう。店主は苦笑を浮かべて答えた。
「はい、実は。今日新しく越してきたばかりで、開店準備が整っていないのですよ。申し訳ありません」
「あ、いえ、こちらこそ!」
そう言って頭を下げると、身を翻して店を出て行こうとした少女を店主が呼び止めた。
「あ、待ってください」
呼び止められて、少女は立ち止まった。
棚にしまうための荷物を抱えていた店主はカウンターの上にひとまずそれを置くと、少女のそばまで近づいてきた。
「あぁ、やっぱり」
少女の肩越しにガラスのドアを見て店主が嘆息した。そうして少女へ優しい笑顔を向けた。
「準備中の札を出し忘れていた私が悪いんです。どうかお気になさらずに。何か買いに来たのではないのですか? 処方箋の受付はまだできませんが、市販の商品でしたらすぐにお出しできますよ」
「それじゃぁ、あの、頭痛薬を……」
「はい、少しお待ちくださいね」
言うと、ダンボールの中からいくつかの商品を取り出した。
「頭痛薬でしたらこの三種類がありますけど、いつも使っている物はありますか?」
雑多なものがおかれたカウンターの上に三箱の異なる頭痛薬を並べて問うと、少女が一番右側の箱を指差す。
「こちらですね? でしたらお代金が……」
会計を済ませて店名の刻まれたビニール袋に商品を詰めると、店主は少女に商品と一緒に名刺を差し出した。
「本来でしたら、病院の処方箋も受け付けますので。それと、リラックス効果のあるアロマテラピー商品も販売する予定なので、よろしかったら是非お暇なときにでもいらしてくださいね。私がアドバイスもしますから」
そう言って向けられた笑顔があまりにも美しく、少女は夢のような心持のまま後ろ髪を引かれる思いで店を後にした。
差し出された名刺には、「EveryWhere 弥音」とある。
最後の二文字は名前だろうか? それにしては苗字のようなものが見当たらない。それとももしかしたら日本人ではなくて、この二文字でフルネームなのかもしれない。
今度は、きちんと開いているときに行ってみよう。名前はそのとき聞けばいい。
少女はなんとなくうれしくなって家路を急いだ。
なんだか、さっきまでは酷かった頭痛も治まっているようだった。
- 作品名
- オープニング (弥音)
- 登録日時
- 2005/03/01(火) 23:13
- 分類
- EveryWhere::僕らのウィークデー